能ある狼は牙を隠す
すぐ近くで作業をしていた霧島くんが、椅子に座ったまま私を見上げた。
「ちょうど良かった。これ狼谷に持って行ってよ」
言いつつ彼が渡してきたのは、狼谷くんのブレザーだ。
どうしてこんなところに、と思ったけれど、脱いだまま忘れていったんだろうな。
「ここに置いといたらインクとかつくかもしれないし。頼んでいい?」
了承して受け取ろうとした矢先、霧島くんの隣にいた女の子が顔を上げた。
「ふふ、合法的に彼氏と二人になれるなんて羨ましいなあ」
「え?」
耳を疑ってしまう。彼女の視線は明らかに私に向けられていて、ということはつまり――
「本当に二人が付き合ってるとは思わなかったよ。狼谷くん、あんなにデレデレになるんだね〜意外〜」
「えっ、えっ? ちょっと待って、あの、それは全くの誤解で……!」
奇襲を受けて思い切り動揺した。そんな私の様子を見て、彼女は続ける。
「え〜? だって、風鈴祭りで二人を見かけたって聞いたよ。休み明けも二人で話してること多いから、てっきりそうなのかと……」