能ある狼は牙を隠す
あれこれ考えているうちに、委員会の作業場所に戻ってきてしまった。
全学年、全クラスの委員がいるから、かなりの人数だ。それなのに、狼谷くんをすぐに見つけてしまった。
だって仕方ない。彼は一際目を惹くから。
端正な顔立ちに、高い背。きらきらと眩しいくらいの雰囲気。
最近は慣れてきてしまっていたけれど、こうして遠目で見ると分かる。彼の隣に並んで「お似合い」と言ってもらえるほど、私は出来た人間ではない。
「あ、羊ちゃん。おかえり」
歩いてくる私に、狼谷くんは口元を綻ばせた。
その表情を見た途端、胸の奥が締まる。
「狼谷くん、これ。教室に忘れてたよ」
息苦しさを振り払うように、努めて明るい声を出す。
新聞紙と段ボールを床に置いてから、私はブレザーを彼に差し出した。
「ああ……ごめん、ありがとう」
そう言って、狼谷くんが手を伸ばした刹那。
「ひゃっ……」
ほんの僅かに触れた手。たったそれだけだったのに、反射的に腕を引っ込めてしまった。
「羊ちゃん?」
彼が驚いたように私の名前を呼ぶ。
どくん、と波打つ脈が、頭のすぐ内側で音を立てているような気がする。
「ご、ごめんね……何でもないよ」
顔が、頬が熱い。