能ある狼は牙を隠す
と、日本人らしく謝り合ったところで。
「……犬飼くん、作品は無事?」
「ええと、」
私の問いかけに、彼は視線だけずらす。
淀んだ水を思い切り受け止め、完全にふやけきったただの画用紙がそこに鎮座していた。
「修復は……無理そうだね」
う、と鳩尾をつつかれたような声で肩をすくめた犬飼くんは、「ですね……」と同調する。
「うわ、どうしたのこれ? びしょびしょじゃん」
水を汲みにいくところだったのか、カナちゃんが私の作業していた机を通りかかった。
そして水を吸い込んだ一枚の紙を視界に入れると、同情の眼差しを向けてくる。
「今から描き直しか……お疲れ」
その言葉がとどめだったのか、犬飼くんは項垂れてしまった。
悲壮感と絶望感の漂う雰囲気に、今回ばかりは癒されるなんて次元ではない。同じ美術部員としてこの辛さは分かるし、さすがに可哀想だ。
「はあ……間に合うかなあ……」
彼は頭を抱えてそう零す。
「あの、犬飼くん。……何か、手伝おうか?」
「え?」
「いや、なんというか……私にも若干責任があるし……」