能ある狼は牙を隠す



疲れた……。
ぐだ、と廊下の壁に体を預け、私は一人ため息をつく。

朝や午後はクラスの準備、放課後は委員会の仕事、それからさっきまでは部活の作品づくり。
想定はしていたにせよ、いざこなすとなると肉体的にも精神的にもくる。

美術室にはまだ部長や他の人が残っていて、さすがに集中力が途切れた私は早々に退散した。
犬飼くんは「僕も帰ります」と立ち上がったところを、「君は死ぬ気でやらないと終わらないでしょ」と部長に引き戻されていたけれど。


『白先輩……僕を置いて帰るんですか!』


私が帰る直前まで駄々をこねていた彼は、みんなから「またか」といった目で呆れられていた。犬飼くんの幼児退行は見慣れている。


『ごめんね、明日はちゃんと最後まで付き合うから』

『約束ですよ!』


頬を膨らませる仕草が本当に幼子のようで、思わず手を伸ばしてしまった。ふわふわの髪の毛を撫でようとした寸前で我に返った私に、犬飼くんは不満げで。


『……撫でてくれないんですか?』

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