能ある狼は牙を隠す


寂しそうに眉尻を下げられると、こちらが悪いことをしたような気分になった。
恐る恐る彼の髪に触れようとしたところで、犬飼くんが私の手の平に自ら頭を押し付けてきた。


『もー、犬飼くん……はしゃぎすぎだよ……』

『白せんぱぁい……』


甘えるような声で私を呼ぶ声に、一瞬驚いてしまう。


『はーい、君はこっち。じゃあね、白さん。お疲れ様』

『あ、はい……お疲れ様です……』


部長が犬飼くんの襟元を掴み、あっさりと引き戻した。
かくして私は無事に帰宅ルートを確保できたわけだ。

いつまでも立ち止まっているわけにもいかず、ゆっくりと歩き出す。
下駄箱の近くに差し掛かったところで、人影が見えた。

こんな中途半端な時間に誰かがいるなんて珍しい。まあでも今は文化祭の準備もあることだし、熱心なクラスだったら遅くまで作業をしているのかも。

そこまで考えて、さらに近付いた時。


「だって、……じゃん!」


女の子の声だろうか。高めのトーンが非難じみた音を発している。
どうやらそこにいたのは一人ではなかったらしく、会話が断片的に聞こえてきた。


「私は……だったのに、違うの?」

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