能ある狼は牙を隠す


運が悪いことに、彼女たちがいるのはちょうどうちのクラスの下駄箱があるところだった。息を殺して帰ろうにも、靴を取れないのならどうしようもない。

うーん、不可抗力。申し訳ないけれど、なるべく聞かないようにして待たせてもらおう……。

潜伏を決めて、私はその場に立ち止まった。
バスの時間はまだ大丈夫だろうか、とスマホを起動させようとした刹那。


「知らないよそんなの。……でしょ」


まさか。

どっ、と急に心臓が早鐘を打ち始める。
好奇心に負け、私はほんの少しだけ様子を窺った。

長い足。ポケットに突っ込まれた両手。銀の、ピアス。――狼谷くんだ。

それだけ確認して、慌てて身を隠す。
見てはいけないような気がした。聞いてはいけないような気がした。

それなのに、なぜか足が縫いつけられたように動かない。ばくばく、と心臓は容赦なく自身の焦りを伝えてくる。

無意識のうちに胸を押さえて、静かにしゃがみ込んだ。


『本命? いないよそんなの』

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