能ある狼は牙を隠す
以前の狼谷くんの言葉が脳裏をよぎる。
きっと今もそうだ。女の子とこうして話しているのも、それ以上の関係を持つのも。
彼にとってはそれが当たり前で日常。今更何だというのか。
狼谷くんはそういう人だ。元々全く交わるはずのなかった人。
たまたま、偶然。委員会が同じになって、優しくしてもらって、友達になれて。
それで十分なはずだ。私は一体、何を勘違いしていたんだろう。
『だから、深入りしない方がいいよ』
大丈夫。大丈夫だ。
今まで通り、普通に接していれば問題はない。まだ戻れる。
――戻れる?
戻るって、どこに。何を。じゃあ私は今どこにいるっていうの。
分からない。ここ数日、ずっと考えていた。
狼谷くんとの接し方が、距離が、正解が分からない。
「羊ちゃん?」
「ひゃあっ」
頭上から降ってきた声。飛び上がった私に、狼谷くんは問うてきた。
「何でここに……っていうか、いつから……」
珍しく険しい表情だったので、聞かれちゃまずいことでも話していたんだろうか、と不安になる。
ともかく身の潔白を証明しようと、私は声を張った。
「ご、ごめんね! またこんな感じになっちゃって……でも、あの、ほんとに全然話は聞いてないから!」