能ある狼は牙を隠す
これは嘘じゃない。
会話の内容までは理解できなかったし、単に話している様子が見えただけだ。
じっとこちらを見つめる狼谷くんに、少々気まずくなって目を逸らす。
「……何で逸らすの」
「えっ、と……」
「ちゃんとこっち見て」
彼に言われた通り、渋々視線を戻した。
何となくいつもと雰囲気が違う。穏やかな、柔らかいものじゃなくて、どこか尖った空気だ。
「狼谷くん、ごめんね……」
「え? 何で謝るの」
「え、だ、だって、何か怒ってる……よね?」
もしくは機嫌が悪い。多分、そんな気がする。
狼谷くんは目を見開いて、それからゆっくりとしゃがんだ。
「あー……ごめん。これは自分にっていうか、まあそんなとこだから。羊ちゃんには怒ってないよ」
再度「ごめんね」と口元を緩めた彼に、ほっと胸を撫で下ろす。
数秒沈黙が落ちて、狼谷くんの手が私の頬を撫でた。
突然触れられて驚き、肩が跳ねる。
「あ、え、狼谷くん……?」
その動作は優しくて、もう普段の彼だ。
真っ直ぐ見られているのが恥ずかしくて、耐えきれずに目を瞑った。
「……ん、」