能ある狼は牙を隠す
既に明白な事実をなぞるかのように、念押しするかのように。
犬飼くんの口調は一切の否定を受け付けていない。
「いいんです、僕ちゃんと分かってますから。白先輩は誰にでも優しいのに、それを勘違いするのが悪いんですよ。先輩の高尚さを分からない奴らなんて、構う必要ありません」
「犬飼くん……?」
「大丈夫ですよ、白先輩。下衆の言うことになんて耳を貸さなくていいんです。先輩はそのまま、真っ白なままでいて下さい」
彼の瞳には光がない。どこか盲信的な響きをはらんだ言葉に、私は激しく戸惑った。
一体彼が何の話をしているのか、最初から最後までついていけなかったのだ。
「うーんと……とりあえず私は白だから、これからも真っ白? というか、それが変わることはないだろうし……」
隠喩みたいなことだったんだろうか。
結婚しない限り苗字が変わることはないだろうし、私は「白」だ。
必死に首を捻って答えを模索していると、
「先輩……ああ、尊い……」