能ある狼は牙を隠す



「白さん。そこ、袖にインクつきそうだよ」

「あっ、え!? ごめん、ありがとう!」


クラスでの作業中、背後から指摘されて声が上擦った。

津山くんは緩慢に私の向かいに腰を下ろし、手元にあったカラーマーカーを手に取る。


「こっちも同じ色で塗ればいい?」


至極当然のように聞いてくる彼に、私は頷きながらも驚いていた。


「津山くん、ありがとう……あの、でもどうして」

「んー? ちょうど暇になったし、白さん一人で大変そうだったから」


津山くんはそう答えると、軽く肩を回して視線を落とす。
よく周りを見ているんだなあ、と感心しつつ、私も作業に戻った。

そういえば、狼谷くんが見当たらない。彼と津山くんは大体いつも一緒にいるし、今は委員の仕事もないのに。

教室内を見回したけれど、その姿は確認できなかった。


「玄のこと、探してる?」


ぎくりと背筋が伸びた。
静かに目の前へと視線を送ると、津山くんの双眼とぶつかる。


「あ、えっと……探してるっていうか、いつも津山くんといるのに今はいないから、珍しいなと思って」

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