能ある狼は牙を隠す


私の回答に津山くんは何も言わず、ただじっと見つめてくるだけだった。
それが何だか責められているような気がして、沈黙に耐えきれなくて、そのまま続ける。


「だって、津山くん前に言ってくれたよね。深入りしない方がいいって」


そう述べた途端、彼が目を見開いた。
ようやく無表情が終わりを見せて、少しだけ安心する。


「私のこと心配してくれたんだよね? ありがとう、大丈夫だよ。本当に、大丈夫だから」


ちゃんと身の程はわきまえてるよ。
狼谷くんが優しくしてくれても、それは私が彼の「女友達」だからだ。


『……羊ちゃんは、俺の唯一の女友達なんだ』


唯一、だから。例え他の女の子が狼谷くんを好いていたって、私だけは好いちゃいけない。私にそんな気持ちがあると知ったら、彼は友達を失ってしまう。


「……狼谷くんを裏切るようなこと、できないよ」


私を信頼してくれているんだ。その期待に応えなきゃ。


「裏切る?」


津山くんが眉根を寄せた。意味が分からない、とでも言いたげだ。


「いや、俺が言いたかったのは――というか、着火剤になりたかっただけなんだけど……」

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