能ある狼は牙を隠す
何か悩ましげに頭を掻く彼の意図をはかりかねて、今度は私が首を傾げる。
「あー、もういいや。後で俺が怒られればいいもんな、うん」
自己完結したらしい津山くんは、真っ直ぐに私の目を射抜いた。
「白さん。玄のこと、好き?」
「す、……好きって、」
今までとは打って変わって直接的な物言いに、たじろいでしまう。
好き、という単語を自分の口から発した瞬間、頬が熱くなった。
だめ、違う。好きじゃない。
津山くんだって言ったんだ、辛くなるのは私だと。本気になるのは間違ってる、と。
好きになっちゃいけない。好きになったらきっと苦しい。彼の周りにいる女の子たちと同じように、「本命じゃない」と烙印を押されてしまう。
認めたら辛いのは私だ――。
「……津山くんが、言ったんじゃない」
「え?」
「好きになるなって、津山くんが言ったくせにっ」
ああもう、最悪だ。これじゃ八つ当たり。
もやもやと黒い霧が胸の中を漂って、気分が沈んでいく。
「ごめん、違うの。津山くんは悪くなくて……」