能ある狼は牙を隠す
自己嫌悪が酷い。
深々と息を吐き出して、瞼を閉じる。
津山くんが姿勢を正す気配がした。
「白さ――」
彼が言いかけて留まる。
何だろう、と目を開けると、津山くんは私の背後を見上げて固まっていた。
「あー、玄。遅かったな……」
一気に呼吸がしづらくなった。
後ろを振り返ることができないまま、会話が進んでいく。
「なに。何で岬が羊ちゃんと二人でいんの」
「ただ手伝ってただけだって。じゃあ俺、戻ろうかな。玄、代わりに手伝ってあげて」
え、と零したのは私だった。
立ち上がる津山くんに、間髪入れず「待って!」と大きな声を出してしまう。
「え、つ、白さん……? どうしたの」
「あ、いや、えっと」
いま狼谷くんと二人になるのは避けたい。私が一方的に気まずいだけなんだけれども、とにかく落ち着く時間が欲しかった。
なんて引き止めようか、と考えていると、私の隣に狼谷くんが座ってしまう。ふわりとオレンジの香りが鼻孔をくすぐった。
「羊ちゃん」
「ひあっ」