能ある狼は牙を隠す
定位置は決まっている。窓側の一番奥の席。
いつもの如くそこに腰を下ろして、しばらく無言の時間が流れた。
もういっそのこと早く本題に入って欲しい。この謎の沈黙が薄ら寒いというか、本当にこの男は思考が読めなくて毎度苦労する。
「……あっま」
フラペチーノを一口飲んで、玄は顔をしかめた。
その様子を目をして、ますます俺は不安が募る。
え、何? ついにおかしくなったの? 自分の好みも把握できないほどイカれたの?
一向に話す気配がない彼に痺れを切らした俺は、どうにでもなれ、と口火を切った。
「えーと、俺、まず玄くんに謝らなきゃいけないことがあるんですけど……」
というか、俺はただ友人のことを想って彼女をつついただけだったんですけども。
視線だけこちらに向ける玄。話したければ勝手に話せ、といったスタンスだ。
「白さんにさぁ……玄のこと好き? って、聞いちゃったんだよね」
玄が彼女のことを特別に思っているのは、前々から分かっていた。彼自身が自覚するまでは口出しするべきではないと思っていたし、今でもそれが間違っていたとは思わない。