能ある狼は牙を隠す
夏休み明け、瞬く間に広がった噂によると、二人が付き合っているとかいないとか。
最初耳にした時は一体何を根拠に、と驚いたが、玄の彼女に対する態度を見れば一目瞭然だった。
焦がれるような視線、甘い声、柔らかい表情。
明らかに「友達」の域を越えた距離感に、クラス中が察した。
ようやく彼にも本当の彼女ができたのか、と喜んだのも束の間。玄の口から飛び出したのは、「付き合ってない」との言葉だった。
『は? え? 付き合ってないって……いや、あれどう見ても付き合ってたでしょ。え?』
『うるさ。だから付き合ってないって。噂流しとけば下手に手ぇ出されることもないし』
その返答に俺の背筋が凍った。
噂流しとけば? ああ、なに、自分で流したってこと? 他の男への牽制?
冷静に分析しながらも、鳥肌が止まらなかったのを覚えている。
つまりは玄の健気な片想いというわけで。これは友人として一肌脱がなければいけないだろう。
彼女も玄のことを嫌がる素振りはないし、むしろ受け入れているような気すらする。そんな二人を観察しているだけなのが何とももどかしくて、俺はついつい先走ってしまったのだ。
『白さんはさ、玄のことどう思ってるの』