能ある狼は牙を隠す
俺の質問に、彼女は焦燥の色を滲ませた。
確実に火種はある。まだ燃えていないだけで。
だったらそれに焚き付けてやればいいじゃないかと、少し意地悪なことを言ってしまった自覚はある。
だけれど、あっさり着火するわけでもなく、鎮火するわけでもなく。燻ったように「友達だ」と主張する彼女に、どこか違和感を覚えた。
そして次の瞬間。彼女が発した言葉に、俺は自身が随分と前に過ちを犯していたことを知る。
『だって、津山くん前に言ってくれたよね。深入りしない方がいいって』
あの時のことか――!
確かにあの時はあの時で真剣に言葉を選んだつもりだった。本心であることに変わりはないし、今でも少し思っている。
でも、それと今とでは状況が違う。
どうやら彼女はずっと忠実に俺の言葉を抱えていたらしい。
思案顔で目を伏せた白さんは、それからこう言った。
『……狼谷くんを裏切るようなこと、できないよ』
正直全く意味が分からない。が、彼女が何か盛大に勘違いをしていることは分かる。
酷く悲しげな、それでいて苦しそうな表情。彼女は終始泣きそうな目をしていた。
『好きになるなって、津山くんが言ったくせにっ』