能ある狼は牙を隠す
割とマメだと女の子に定評がある俺ですら、毎日中身のないやり取りをするのは少々億劫に感じることがある。
女の子は得てしてたわいもない話を好むものだ。
「や、今は絵文字で絵しりとりしてるだけだから」
何その可愛らしいやり取り――――!
意図せずほっこりしてしまい、いかんいかん、と首を振る。
「あのー、玄くん。女の子たちだけじゃなくて俺にも返信して欲しいなー?」
遠慮がちに主張してみせると、玄は眉をひそめた。
「たちって何。羊ちゃんにしか返してないんだけど」
「え? いや今ってか、ナウの話じゃなくて――」
「女の連絡先全部消したし」
ばっさり言い切った彼に、空いた口が塞がらないとはこのことか、と妙に腑に落ちる。
「消したって……え? 何でそんな、」
「別に羊ちゃん以外興味ない。つか、必要ない」
「いやだからって何も全部消さなくてもさあ……」
呆れたような声色が自身の喉から漏れ出た。そんな俺に目もくれず、玄はスマホに夢中で。しばらくは戻ってこないだろう。
しかしそんな友人を眺めながら――こんなに多幸感に満ちた表情をできる恋なら、悪くないのかもしれない、と。そんな期待が淡く胸の奥に広がった。