能ある狼は牙を隠す
突然そんな質問を投げかけられて、「えっ?」と間抜けな声が漏れた。
カナちゃんは難しそうな顔をすると、肩をすくめる。
「だって羊、最近狼谷くんのこと避けてるでしょ。違う?」
「え、ええと……違くはないけど、」
「やっぱりね。ちょっと待ってて、私が狼谷くんに言ってくるから――」
「いやいやいやカナちゃん!? いったん待とう!?」
私の言葉を最後まで聞かずに立ち上がったカナちゃんに、慌てて止めにかかる。
「羊からじゃ言いにくいなら、他の人が言うしかないでしょ。いつまでもそうしてるわけにいかないんだし」
「そ、それはそうかもだけど! 気持ちだけで十分だから!」
やけに行動力のあるカナちゃんを何とか押しとどめて、浮かせた腰を下ろした。
少しだけ。少しだけ、時間が欲しい。
このまま狼谷くんと関わり続けたら、私は「友達」として彼に接することがずっと不可能になってしまう。
私が狼谷くんのことを純粋に友達として思えていないことを、仮に知られてしまったら。きっと狼谷くんはもう私に笑ってくれない。それは嫌だ。
「私が悪いの。私が、約束を守れてないから」
ちゃんと「友達」になる。そのためにも、今はまだ距離を置きたい。
首を傾げるカナちゃんに、私は苦笑してそう告げた。