能ある狼は牙を隠す
ふわりと微笑んだ彼が眩しい。一瞬目を奪われて、それから我に返った。
「あ、えっと……ごめんね、このあと部活の方に行かなきゃいけなくて……」
さり気なく視線を逸らしながら、私はへどもどと返事をする。
狼谷くんは「そっか」と簡素に答えて、残念そうな声で続けた。
「やっと二人きりになれると思ったんだけどな」
「えっ」
「最近羊ちゃん、全然俺のこと構ってくれないんだもん。寂しかった」
率直に伝えられた言葉に、思わず頬が火照った。寂しい、という単語を聞いて、どこか嬉しく思う自分がいる。
狼谷くんにそう思わせてしまっていたのなら、私はいま全然ちゃんと「友達」をやれていない。私の都合で避けるのは、やっぱり彼にも申し訳ないし良くないことだ。
「忙しいのはもちろん分かってるけど……たまには俺のことも相手して?」
僅かに首を傾げ、狼谷くんが甘えるように私の顔を覗き込んでくる。
きゅう、と心臓が縮んで、息が詰まった。
ちゃんとしなきゃいけないのに。こんなことでいちいち動揺してちゃいけないのに。
思いに反して、顔は熱くなる一方だ。
「う、うん……ごめんね……」