能ある狼は牙を隠す
私の弁明に口を尖らせた犬飼くんは、「そんなことより」と首を振った。
「僕、先輩にアドバイスしてもらいたいところがあるんです! 早く行きましょ!」
「えっ、あ、うん……分かったよ」
ぐいぐいと引っ張られて、その方向によろめく。
既に背を向け歩き出す犬飼くんに若干の違和感を覚えつつも、私は振り返って声を張った。
「じゃあ狼谷くん、また明日ね!」
突然の犬飼くんの登場に、さぞ驚いたことだろう。狼谷くんは目を見開いて、立ち尽くしていた。
「ああ……うん、じゃあね」
戸惑ったような、そんな返答を確認して、私は今度こそ犬飼くんの隣に並ぶ。
先程から掴まれたままの腕に、どこか窮屈さを感じた。
廊下の角を曲がろうとしたところで、隣を歩いていた足が止まる。数歩先を進んだ私は、必然的にそれにつられて立ち止まることになった。
僅か後ろを見上げると、犬飼くんがちょうど振り返っているところだ。
「どうしたの?」
問いかけると、彼はすぐさま私に向き直る。
「いえ、何でもないです。行きましょうか」
そう答えた犬飼くんの笑い方が、どこか表面的なもののような気がして、背筋が伸びた。