能ある狼は牙を隠す
本末転倒
朝日が部屋に射し込んでくる。
重たい瞼を開けて習慣的に腕を伸ばせば、指先に当たった目覚まし時計。
毎朝うるさく鳴り響くそれを、何度か強く叩き止めてから上半身を起こすのが常だった。今日は、例外だったけれど。
アラームが起床時間を告げるまで、あと三十分。随分早く目が覚めてしまって、私は仕方なくベッドから起き上がった。
「……眠い」
全然寝た気がしない。昨日は夕ご飯を食べてすぐお風呂に入って、いつもより一時間も早く目を閉じたのに。
何もしていないと余計なことを考えてしまうから、早々に寝ようと思った。だけれど、真っ暗な自我世界の中でどんなに抗っても、勝てっこなかった。
『俺、羊ちゃんが好き』
もう脳内で再生回数は百を超えた。狼谷くんの声が明瞭に思い出されて、体温が上がる。
昨日と今日で、確実に変わってしまった。この関係性に一体なんて名前をつければいいのだろう。
今日このあと学校へ行って、彼にどんな顔をして会えばいいのだろう。
充電器からスマホを抜き取って、ブルーライトで目を覚ます。
癖でメッセージアプリを起動している自分に、耐えきれず苦笑した。通知はゼロだ。
狼谷くんは律儀で。毎日、決まって「おはよう」とメッセージをくれる人だった。
どうやらそれも、今日で終わりらしい。