能ある狼は牙を隠す
*
「痛っ」
隣で作業中の犬飼くんが、唐突に声を上げた。
「どうしたの? 大丈夫?」
「あー……はい、大丈夫です。ちょっと紙で切っちゃっただけなんで」
手をぶらぶらと揺らし、彼は眉尻を下げる。
確か絆創膏があったはず。そう思い至って、私はポケットに手を入れた。
「はい、これ使って。紙で切ると結構痛いよね」
「えっ、いいんですか? すみません……」
遠慮がちに伸びてきた犬飼くんの手を見て、思わずぎょっと目を見開く。
「犬飼くん!? どうしたの、これ!?」
既に絆創膏だらけの指は、酷く痛々しい。彼は気まずそうに頭を掻いて、口を開いた。
「はは、ちょっと寝ぼけてて……今朝部屋から出て階段降りる時に、やっちゃいました」
「ええっ! 痛そうー……利き手じゃなくて良かったね……」
「そうなんですよ。危うく筆を持てなくなるところでした」
ドジというか、最早そこまでいくと事故というか……。
いつかとんでもない目に遭ったりしないだろうか、と不吉なことを思ってしまう。
なんとはなしに見上げた犬飼くんの目の下には、珍しく隈ができていた。寝ぼけていたとさっきも言っていたし、よく眠れなかったんだろうか。
「犬飼くん、今日はもう帰った方がいいんじゃない?」
「痛っ」
隣で作業中の犬飼くんが、唐突に声を上げた。
「どうしたの? 大丈夫?」
「あー……はい、大丈夫です。ちょっと紙で切っちゃっただけなんで」
手をぶらぶらと揺らし、彼は眉尻を下げる。
確か絆創膏があったはず。そう思い至って、私はポケットに手を入れた。
「はい、これ使って。紙で切ると結構痛いよね」
「えっ、いいんですか? すみません……」
遠慮がちに伸びてきた犬飼くんの手を見て、思わずぎょっと目を見開く。
「犬飼くん!? どうしたの、これ!?」
既に絆創膏だらけの指は、酷く痛々しい。彼は気まずそうに頭を掻いて、口を開いた。
「はは、ちょっと寝ぼけてて……今朝部屋から出て階段降りる時に、やっちゃいました」
「ええっ! 痛そうー……利き手じゃなくて良かったね……」
「そうなんですよ。危うく筆を持てなくなるところでした」
ドジというか、最早そこまでいくと事故というか……。
いつかとんでもない目に遭ったりしないだろうか、と不吉なことを思ってしまう。
なんとはなしに見上げた犬飼くんの目の下には、珍しく隈ができていた。寝ぼけていたとさっきも言っていたし、よく眠れなかったんだろうか。
「犬飼くん、今日はもう帰った方がいいんじゃない?」