能ある狼は牙を隠す
始まったばかりだけれど、このまま続けても精神衛生上良くない気がする。
幸いにも彼の作品は今のペースでいけば確実に間に合うだろうし、今日一日しっかり休んだ方がいい。
それに、私もそろそろ部活の方だけでなくクラスの準備に貢献しなくてはいけない。
これまでは作品の進捗が芳しくなく、放課後は部活に来させてもらっていた。委員会の仕事もあったからね、とみんなは快く送り出してくれていたけれど、流石に申し訳なくて。
明日以降はもう少しクラスへ時間を割こうと思っていたところだった。
犬飼くんを見送って今から教室へ行けば、今日からだって手伝えるかもしれない。
「でも、せっかく白先輩がみてくれてるのに……」
「それは今日じゃなくたって、いつでもみてあげられるよ。ほら、荷物まとめて。帰ろう?」
しゅん、と項垂れる犬飼くんの背中を軽く叩いて促す。
彼は渋々といった様子で頷くと、椅子を引いて立ち上がった。
「わっ……大丈夫!?」
足元をふらつかせた犬飼くんの体を、咄嗟に支える。
私の腕を掴んで何とか踏みとどまったらしい。彼は顔を上げて、苦しそうに息を吐いた。
「すみません……ちょっと、具合が良くなくて」