能ある狼は牙を隠す
なんて切り出そうか迷っていると、狼谷くんが突然距離を詰めてきた。
一歩引こうとしたところで、勢いよく抱きすくめられる。
「え!? な、狼谷くん!?」
咄嗟に彼の胸板を押し返すと、思いのほか簡単に離れてくれた。
それに安心したのも束の間。狼谷くんは恨めしげに私を見ると、低く唸る。
「……あいつはいいのに、俺はだめなんだ?」
「え、」
初めてぶつけられた怨念にも似た感情。翳った表情が酷く空虚だ。
心臓がひやりとして、ひたすらに焦る。
「ど、どうしたの……狼谷く――!?」
数歩離れていた分を一瞬で詰められたと思った瞬間、荒々しく肩を掴まれ、そのまま真後ろのベッドに倒れ込んだ。
立っていても寝転がっていても、視界には狼谷くんの顔が広がるばかりで。
彼の眉間に刻まれた皺を眺めていると、腰の横が沈む。
「ねえ、羊ちゃん。教えてよ。羊ちゃんの好きなタイプってああいう男なの?」
私の体の両側に膝をついて、狼谷くんは淡白に問うた。
一拍遅れて状況を理解した私はといえば、どくどくと脈がうるさい。
「え!? あの、タイプって……ああいうって、犬飼くんのこと?」