能ある狼は牙を隠す


奈々はよく言葉を欲しがった。目に見える形で、耳に残る形で、愛情を確かめたかったのだと思う。

俺も少なからずそんな彼女から影響を受けていたのかもしれない。
行為中に相手から「好き」だの「愛してる」だのと言われて、悪い気はしなかった。

彼女は俺のことを「私と同じ」だとよく言っていた。それは俺もそう思う。
満たされたくて、愛されたくて、必死に目の前の空虚な熱にしがみついている。

ただ俺と彼女が決定的に違ったのは、相手への依存性だった。質と量、どちらを重視するかの違い、といってもいいかもしれない。

結論から言うと、俺は誰だって良かった。特定の誰か一人に期待するよりも、不特定多数から少しずつ手軽な愛情を得た方が効率がいい。
しかし奈々は違う。元々の性格もあったのだろうが、俺に依存していた。

色んな相手と関係を持つ俺に、奈々は別段咎めることはしなかった。
ただ、日に日に彼女はより強く「愛情」を求めるようになった。


「本当はずっと嫌だったけど……でも、私とは一番続いてるし、私が一番玄のこと分かってるから……だから、いつかきっと彼女にしてくれるんだと思って……」

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