能ある狼は牙を隠す
彼女をこうさせてしまったのは、俺にも責任がある。
身勝手で、幼稚で、糞ったれな自分。それを否定することも、投げ出すことも許されない。この醜さを一生背負って、俺はこの先も生きていかなければならない。
もう二度と、間違えないように。
太陽のようなあの子のそばにいたい。こんな俺を当たり前のように照らしてくれる、あの子のそばに。
「俺、もう奈々とはしない。できない。……誰とも、しない」
突然連絡を絶った俺に、戸惑った女の子は沢山いた。
それでも一言、「もうしない」。それだけ伝えた俺に、あっさりフェードアウトした子がほとんどだった。
きっとお互いその程度だったのだろう。自分の価値の軽薄さに嫌気がさしたが、認め切ってしまえば不思議と心は軽かった。
だからここで終わらせる。一番強かったある種の絆も、雁字搦めの縄を解いて放り出さなければならない。
奈々の頬が震える。拳がきつく握りしめられていて、瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
彼女はそれを拭うこともせずに、俺をひたすら睨みつける。
「…………もう、いい」
長い空白の後、奈々はそう呟いて外へ駆けていった。
自分の手に握られている紙切れ。その悋気を今この場で処理したかった俺は、近くのゴミ箱を求めて踵を返す。
「羊ちゃん?」
「ひゃあっ」
そのあと一分も経たないうちに、肝を冷やすことになるのだけれども。