能ある狼は牙を隠す



だからつまり、狼谷くんを羊が更生させればいいんだよ。

昼休みにカナちゃんが放った言葉が、脳内でぐるぐると回っていた。

更生って、そんな大袈裟な。
私が何か施したところで、昨日みたいに彼を怒らせてしまうだけのような気がする。

それに、彼には彼なりのポリシーとか、こだわりとか、そういうものがあると思う。
私が「違う」と思ったものでも、彼にとってはそれが正解なのかもしれなくて。


「あ、あのっ、白さん!」


帰りのホームルームが終わって教室が騒がしい。

考え事をしていた私は我に返って、声の主を振り返った。


田沼(たぬま)さん? どうしたの?」


彼女が話しかけてくるなんて珍しい。
田沼さんはとっても真面目で、休み時間はいつも読書に勤しんでいる。


「あの、その……」

「うん?」


少しずり落ちた眼鏡をくいっと上げて、田沼さんは口ごもった。
彼女は抱えていた日誌を私に差し出すと、そのまま勢い良く頭を下げる。


「すみません! 代わりに日誌を書いてもらえませんか!」


そんな大きな声出せるんだ!?
思わず驚いて目を見開いた。完全にクラスの視線を集めてしまって、羞恥に心拍数が上がる。


「た、田沼さん顔上げて! みんな見てるから!」

< 31 / 597 >

この作品をシェア

pagetop