能ある狼は牙を隠す
SS 無明長夜 ―Wataru Inukai―
みんな、勘違いをしている。
自分の立場が上だと思い込んで、頼まれて「あげる」と胸を張るのだ。
でもそれは違う。
「お母さぁん、あれ買って」
「もう、しょうがないわね。今回だけよ」
欲しい物があれば強請ればいい。
「センパイ、奢って下さいよ〜」
「しゃーねーな! 今日は俺が出すから」
無いものは借りればいい。
どうすれば相手が頷くのか、自尊心が擽られるのか。それを無意識のうちに分かっていたらしい自分は、「お願い」が上手だった。
主導権を握っているのはいつだって僕だ。それに気付くことなく首を振る馬鹿の、なんと多いことか。
図々しい? 生意気?
別に何も悪いことはしていないじゃないか。相手だって喜んで尽くしてくれるのだから。
頼み事をする時は申し訳なさそうにして、頭を下げる。そんなことは誰が決めた?
綺麗事だ。欲と煩悩に塗れたものを精々外面は取り繕おうとした、日本人の時代錯誤。
「大丈夫?」