能ある狼は牙を隠す
厚顔無恥
学校の前のバス停で止まった。
ぞろぞろと降りていく人の波に逆らうことなく、カナちゃんと前へ進んでいく。
いつもと変わらない朝の光景。
運転席の近くまで来た時、バックミラーに映る自分の表情がどんよりと曇っていて憂鬱だった。ここ最近、質のいい睡眠を取れていない。
私は狼谷くんのことが好きだ。でもそれを今更自覚したところで、特に何か変わるということもない。
じゃあ私は一体どうしたいんだろう。
どんな関係でもいいから傍にいたい、なのか。それとも、このままきっぱり線を引いて離れたい、なのか。
別に初恋というわけでもないけれど、かといって経験豊富なわけでもなく。ただ、ここまで揺さぶられるような強い感情を抱いたのは、間違いなく初めてだ。
「あ……」
ぼうっと宙に意識を飛ばしたまま、玄関まで辿り着く。
少し遠くからでも分かった。洗練された動作で、今日も気怠そうに靴を履き替える彼の姿。
立ち止まった私に、カナちゃんの声が隣から飛んできた。
「羊?」
ただじっと見つめても、彼がこちらを振り向くことはない。
ああ、もう本当に「終わり」なんだ。彼の中では、とっくのとうに完結されたことなんだ。
そのまま歩き出した彼の背中に、思わず私は駆けた。
「狼谷くん!」