能ある狼は牙を隠す
あまりにも自然な流れで言うものだから、「うん」とつられて返してから急いで振り返った。
「えっ、カナちゃん!? ごめん、大丈夫だよ! 私やるから!」
「いーよいーよ、どうせ一緒に帰るし。早く終わらせてアイスでも食べに行こ!」
「うう〜〜〜ありがとう〜〜〜」
優しさが身に染みる……。
有難く黒板はカナちゃんに任せることにして、私は日誌を進めた。
――と、これが昨日の出来事で。
「お願いします、白さん!」
その次の日、私は田沼さんに頭を下げられていた。
物凄いデジャブだ……とおののきながら、私は差し出された日誌を受け取る。
「えーと、今日も代わりに出しておけばいいかな?」
「本当に! 助かります! すみません!」
そして脱兎のごとく駆けていく彼女も昨日と同じだ。
カナちゃんは私の手から日誌を取り上げると、ぱらぱらとめくって肩をすくめた。
「また頼まれたの? 二日連続はさすがにどうかと思うけど」
日直は一週間ごとに変わる。今日は水曜日で、ちょうど折り返しだ。
霧島くんも相変わらず見当たらないし、少し参ってしまう。
「うーん……田沼さんに限ってめんどくさいからとか、そういうのはないと思うんだよね……」