能ある狼は牙を隠す


優しいとか、お人好しだとか。それは私が断れない、意思の弱い人間だからだ。
二十四時間誰かのためにボランティアをしているわけないし、自分のことで精一杯の時の方が多い。


「私のことをそんな風に思うのは、そういうところしか見てないからだよ。家での私見たら、きっとびっくりするよ。いっつも怒られてるもん」


周りからどう見られているのかを気にして、目立つことはほとんどしない。自分をよく見せようと八方美人になっていたり、イエスマンになっていたり。
私はいつだって臆病だ。人に嫌われないように、顔色を窺って生きている。


「犬飼くんが欲しいのは、『綺麗で純粋な私』だよ。でもそれは私じゃない。だって私、穢くて不純だから」


彼の脳内で作り上げられた完璧な理想像。当てはめられて型に押し込まれるのは、少々窮屈だ。


「私が綺麗かどうかは私が決める。この先ずっとそれは変わらない。……だから、ごめんね」


期待されて嫌なわけじゃない。でも私には荷が重いから。きっとあなたの思い描く女の子にはなれない。

犬飼くんの顔が歪む。きつく眉根を寄せ、失意に目が泳いでいた。
彼の唇がわななく。


「白、先輩――」

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