能ある狼は牙を隠す
がこ、とやや荒々しい音がして、前方のドアが開く。
勢い良く中に足を踏み入れたのは、肩で息をするカナちゃんだった。
「はあ……良かった……」
膝に手をついた彼女は、すぐに姿勢を戻してこちらに歩いてくる。
私たちの目の前で立ち止まると、カナちゃんは犬飼くんに顔を向けて、机に一枚の紙を叩きつけた。
「ここですぐに書いて提出して。今なら部長に上手く言っておいてあげるから」
彼女の手の下にあったプリント。印刷された文字が目に入ってきて、息が詰まる。
そこには確かに、退部届と。記されていた。
「……どうして鍵を」
短く犬飼くんが呟く。
「先生に頼んでスペアキー借りたわよ。今日は美術室使えないって突然部長が言い出すから変だと思ったけど……犬飼くんの様子もおかしかったし、見に来て正解だった」
美術室が使えない? そんなことは一切言われなかったけれど……。
カナちゃんの受け答えを聞きながら、私は放心状態で二人の会話を見守る。
「僕がおかしい? 何を言ってるんです。僕はただ、白先輩を……」
「四の五の言わずに書きなさい!」