能ある狼は牙を隠す
あと付け加えるとすれば、散々狼谷くんを馬鹿にされて頭に血が上っていたというのもある。正直に言おう。結構いらいらした。
「何となくだけど、一番怒らせたらだめなの羊な気がする」
「えっ、全然そんなことないよ!? 怒鳴ったりしないから!」
「うん、いや、分かってるんだけど。知らないうちに切り捨てられてそうで」
そんな酷いことしないんだけどな……。これからはすぐ感情的にならないように気を付けよう。
つと視線を上げると、教室の外に津山くんを見かけて「あ」と声が出た。私の様子に、カナちゃんも振り返る。
彼の隣には可愛らしい女の子が二人、いや三人だろうか。相変わらず人気なんだなあ、と視線を戻そうとしたところで、息が詰まった。
「ねえ玄、機嫌悪くない〜? 顔怖いんだけどお」
津山くんの後ろ。女の子が声を掛けたのは、狼谷くんだ。
「……まじでうるさい。触んな」
彼の腕を掴もうとした女の子の手を払い、低い声が拒絶する。その言動に、私は胸の奥がズン、と鉛を落とされたかのように重くなった。
今のはちょっと、見たくなかったなあ。
自分に言われているわけでもないのに、無駄に傷を負ってしまった。
ひどーい! と甲高い女の子の声が耳に届いて、意図せず眉根に皺が寄る。
その後、さっきまでいらないと言っていた甘い物を大量に買った私に、カナちゃんは黙って着いてくるだけだった。