能ある狼は牙を隠す



「お疲れ様でしたー!」

「売り上げ上々! 打ち上げは焼肉で!」


学級委員二人の朗らかな労いに、いえーい、と歓声が上がる。
文化祭二日目も無事に終了し、教室内は花が咲いたように盛り上がっていた。

あとは後夜祭を残すのみで、今は待機しながら後片付けを行っている。

文化委員としては、円滑に文化祭が終わったことが何よりも安心だ。ようやく慌ただしい毎日から解放されるのかと思うと、本当に涙が出る。

鼻歌交じりで作業したいところだけれど、浮かれた気持ちをぐっと堪えた。……つもりでも、体はすっかり気を抜いていたらしい。


「いっ……!」


がんっ、と割と生々しい音を立てて、教室のドアに額をぶつけた。引き戸の溝に少し躓き、抱えていた段ボールに気を取られていたのだ。

思わず壁に寄りかかり、数秒項垂れる。
結構痛かった……いやでも、コケてたんこぶできたとか、情けなさすぎて死ねるかもしれない……。


「大丈夫?」


じんじんと頭の中を駆け巡る痛みに耐えていると、背後から声が飛んできた。
途端、心臓がエンジン全開で稼働し出す。


「あっ……え、狼谷くん……」

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