能ある狼は牙を隠す
津山くんがじっとこちらを見つめている。
「でも、私……もう、辛い。このまま半年以上も我慢しなきゃいけないんだって思うと、」
文化委員の任期が終わるまで。クラス替えするまで。
もし来年同じクラスになったらどうしよう。卒業まで私は、この気持ちを引き摺らなきゃいけないんだろうか。
まずい、泣きそうだ。こんなところで泣くわけにはいかない。津山くんだって困ってしまう。
息を止めて懸命に感情を飲み込む。
そうしていると、津山くんが「あー……」と唐突に頭を掻いた。
「これ俺の口から言ったらフェアじゃないと思うんだけど……いやでも何が悪いって、言葉足りてないあいつが一番悪いんだけどさー……」
と、しばらく呟いた後で、
「玄ね、もうかなり前から女の子と連絡切ってるよ。今は白さん以外、誰とも連絡取ってない」
そう、言った。
「……誰とも」
「うん、誰とも」
何で。だってそんなの、一言も言ってくれなかったじゃない。この間も昨日も、女の子と話してたじゃない。
狼谷くんにとって、恋愛ってそういうものなんだって。好きとか告白とか、彼にとってはそこまで大きいものじゃないんだなって。