能ある狼は牙を隠す


出会ってから今までずっと、彼の影には女の子がいた。
どんなに私に甘い言葉を吐いたって、優しく触れたって。それは決して愛しいからではなくて、ほんの戯れのようなものなんだと。
彼が「本命」を作ることはないと言っていたから私は、必死で自分を律していたというのに。

もし、そうじゃないのだとしたら。


「白さん!?」


もし彼の今までの言動が全て本意で、あの日の言葉も心の底からのものだったんだとしたら。


「ごめん津山くん、ありがとう!」


最初に切り捨てたのは私じゃないか。最初から決めつけて、狼谷くんの気持ちにちゃんと向き合っていなかったのは、全部全部、私の方だった。

保健室を飛び出してひた走る。


『好き』


見ていたくせに。聞こえていたくせに。
苦しそうな表情も、震える声も、何一つ疑う余地がないくらい、本物だったのに。

ただの自己防衛だ。自分が傷付くのが怖いだけだった。
本当に好きになってしまったら、彼の優しい手を信じてしまったら、いつか「本命じゃない」と言われてしまうのが怖かったから。

だから彼はそういう人だと予防線を張って、逃げ続けた。


『俺、羊ちゃんが好き』

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