能ある狼は牙を隠す
そんなこと言われても。
私じゃないといけない理由がさっぱり分からないけれど、何だか彼女はとても必死だ。
「お願いします、お願いします……!」
「えーと……」
そこまで頼み込まれてしまうと、断りづらい。
まあきっと何か訳があるのかな。仕方ないか。
諦めて日誌を受け取り、私は苦笑する。
「私はいいんだけどね。カナちゃんも一昨日から手伝ってくれてるから、田沼さんからもお礼言っておいてね」
「えっ……!」
途端、彼女は硬直して泣きそうな顔をした。
その様子に違和感を覚えながらも、時計を見て鞄を抱え直す。
「じゃあ、私行くね」
ちょっと不憫だけど、話を聞いてあげられるほど時間がない。
私はそのままの足で委員会に参加して、今回も無事に終えた。
「じゃあまた明日ね、狼谷くん。お疲れ様」
狼谷くんはやっぱり優しかった。
どこが、と聞かれれば答えるのは難しい。でも初めて会話を交わした時よりも、棘が抜け切ったような感じがする。
「……それ、まだ書いてないよね?」
「え?」