能ある狼は牙を隠す
「狼谷くん、そこ座って!」
彼を引っ張ってやって来たのは、学校の近くの公園だった。
先生に見つかったら怒られるかもしれないけれど、もうそんなことはいい。どうせ花火が終わったらそのまま帰るだけだ。
「えっ、」
「いいから座るの!」
声を張り上げてベンチを指さす私に、狼谷くんは分かりやすく困惑していた。
彼の手を離し、背中をぐいぐい押して半ば強制的に座らせる。
戸惑ったように見上げてくる狼谷くんの前に屈んで、それから彼の両頬を手の平で包み込んだ。
「こら!」
突然大声で叱った私に、狼谷くんの肩が揺れる。
「え――な、羊ちゃん、」
「狼谷くんはもっと自分のこと大切にして!」
交わった視線。彼の目が大きく開く。
そんな驚いた顔をしたってだめ。私は怒っているんだ。
「あの女の子のことは彼氏さんが守ってくれたよ。でも狼谷くんのことは誰が守るの? そんなにぼろぼろになって……」
傷つけられることに慣れないで。真っ先に自分を犠牲にしないで。
自分が傷つけば解決するなんて、そんな諦め方しないでよ。
「狼谷くんが自分のことそうやって切り捨てたら、誰が拾ってあげるの? 自分のことは自分で守らなきゃいけないんだよ。自分が一番大切にしてあげなきゃいけないんだよ」