能ある狼は牙を隠す
寂しいとか、痛いとか、辛いとか。
全部一人で抱え込むのが偉いわけじゃない。誰にも迷惑かけない人が必ずしも善良なわけじゃない。
自分が壊れてしまう前に、そのSOSに気が付いてあげられるのは自分しかいないんだ。
助けてって。そう言えるのも、一つ大切なこと。
狼谷くんはしばらく私を見据えたまま、その真っ黒な瞳を揺らす。
やがて自嘲気味に口元を緩めた後、小さく零した。
「……いいんだよ、俺なんて。救いようないくらいクズだから、これぐらい痛い目見た方がちょうどいいんだ」
言いつつ目を伏せた彼に、私はとうとう我慢できなくなって思い切り怒鳴った。
「何でそんなこと言うのっ……!?」
途中で声がひっくり返る。
喉の奥から熱いものがせり上がってきて、視界に膜が張った。
「もう俺なんかって言うのやめて! そんな悲しいこと言わないで……」
もどかしい。踏み込むたび一線を引かれてしまう。
どうしたら伝わる? 一人で重たそうに背負っているものを、どうしたら取り除いてあげられる?
彼の顔から手を離す。
「そんなこと、言わないでよ……狼谷くんは、」
私にとって。
「狼谷くんは、世界一素敵な男の子なんだから」