能ある狼は牙を隠す
涙でぐずぐずになって、声が潤んだ。
嗚咽を堪える私を、狼谷くんが呆けたように見上げる。
その眉根が切なげに寄って、唇は震えていた。
酷く迷っているような瞳に、そうか、足りなかったんだな、と思い至る。
「狼谷くん、」
固まったままの彼を、優しく抱き締めた。
回した腕にぎゅっと力を込めて、私は告げる。
「好きだよ」
口にした途端また涙が溢れて、鼻を啜った。
「私、狼谷くんが好き。ずっと……ずっと言えなくてごめんね」
逃げてばっかりで、与えてもらうばっかりで。
狼谷くんはずっと向き合ってくれていたのに、私はちっとも分かっていなかった。
「私、臆病者だから。もう友達は終わりって言われたらどうしようとか、他の女の子ともこんな風に話してるのかな、とか……そんなことばっかり気にして、ずっと言えなかった」
彼の言動を百パーセント信じ切れていない自分が、何よりも嫌いだった。
好きだって思うのに。いちいち気になって、疑心暗鬼になって、やっぱり違うと思ってしまった自分が。
「でも好きなの。優しくて、温かくて、ちょっと寂しがり屋な狼谷くんが好き。笑うとえくぼができるのも、意地悪言うとき目がちっちゃくなるのも、変なとこ几帳面なのも、全部好き」