能ある狼は牙を隠す
ちゃんと伝えたい。
私は今、返せているだろうか。彼がくれた想いと同じくらい――ううん、それ以上。
「狼谷くんが、好きだよ」
胸の奥が凪ぐ。
大切な人のことを想うって、すごくすごく温かいんだね。初めてだよ、こんなに体当たりで好きになったのは。
そっと体を離して、彼の顔を見つめる。
その瞳からは――つ、と一粒涙が零れて、頬を伝った。
「…………ほんとに?」
弱々しい声が不安げに問う。
「え? 何でこんな、俺のこと……ほんとに? ほんとに、好き……?」
信じられない、と言いたげな彼の手を握り、私は大きく頷いた。
「うん、好きだよ。狼谷くんが好き。大好き」
何度だって言うよ。今度は狼谷くんに信じてもらえるように。
また、笑ってくれるように。
微笑んだ私に、狼谷くんはくしゃりと顔を歪めて。ぽろぽろと、次から次へと、涙を流した。
「羊ちゃん……ああ、もう……夢みたいだ……」
ようやっと私の言葉が現実味を帯びたらしい。
懸命に嗚咽を押し殺して泣く狼谷くんを、再び抱き締めた。その背中をとんとんと軽くたたいていると、彼の腕が応えるように私の腰に回る。
「羊ちゃん、好きっ……」