能ある狼は牙を隠す
苦しいほど食い込む彼の腕に、少し笑ってしまう。
狼谷くんは私のお腹にぐりぐりと頭を押し付けると、矢継ぎ早に言い募った。
「好き、好き。ほんとに好き。大好き……やっと言える、好きだよ……」
好き、好き、と彼がうわ言のように繰り返す。
想像以上の猛追に、流石に恥ずかしくなってきた。
「うん、うん、分かったよ。ありがとう。そろそろ離――わっ!?」
立っている私に縋るような形で抱き着いていた狼谷くんに、突然腕を引かれてバランスが崩れる。
彼の膝の上になだれ込んでしまって、顔を上げた瞬間、額に柔らかい感触が降ってきた。
「羊ちゃん、好き……」
「えっ、か、狼谷くん!?」
「可愛い……好き……」
さっきたんこぶできたところなんですが――!?
一度離れたかと思えばまた触れられて、その唇が目に、頬にと下りていく。執拗なバードキスにくすぐったくなって、抵抗の意味も込めて頬を膨らませた。
ちょうどほっぺたに唇を寄せていた狼谷くんが、少し驚いたように顔を離す。
「も、もう恥ずかしいから……だめ」
私がそう言った途端、彼の瞳が熱っぽく揺れた。苦しそうに眉尻を下げて、ただでさえ腫れて赤い頬を、更に真っ赤に染め上げる。
「何それ……? 待って。もう俺、羊ちゃんのこと好きすぎておかしくなる……」