能ある狼は牙を隠す
一意専心
「あ、もしもし、羊ちゃん?」
ベッドに寝そべったままスマホを耳に当てて数秒。目が覚めてから最初に聞いたのは、陽気な彼の声だった。
「おはよ、もうすぐ六時だよ。聞こえてる?」
「……え、あ、」
さも当然のごとく言葉を並べる電話越しの狼谷くんに、私はひたすらに困惑してしまう。
状況を把握できずに呆然としていると、アラームを設定していた目覚まし時計が鳴って、びくりと肩が跳ねた。
慌ててそれに腕を伸ばして止めながら、本来なら今の音で起床するはずだったんだよな、と首を捻る。
「ああ、そっちのアラームも鳴ってるね。起きれたみたいで良かった。じゃあまた後でね」
一方的に告げられて途絶えた電話に、うんともすんとも言えなかった。
……今のって、もしかしなくてもモーニングコールだったのでは。
ようやくその考えに至って、ベッドの上でじたばたと悶える。
びっくりしたよもう! 反射的に電話出たら狼谷くんだったんだから!
確かに昨日、「明日何時に起きるの」とは聞かれた。ただの世間話の延長で、深い意味などないと思っていたのに。
「朝から心臓に悪い……」
でも、声かっこよかったな――と浮ついた思考になりかけたところで、我に返って身支度を始めた。