能ある狼は牙を隠す
バスに乗り込み学校へ向かうまでの間、私はどうやってカナちゃんに昨日のことを切り出そうか悩んでいた。
後夜祭を抜け出して、狼谷くんと二人で花火を見上げたこと。触れた彼の体温が酷く熱かったこと。とても、幸せだったこと。
猛スピードで色々起こりすぎて、本当に昨日のことだったんだろうかと不思議な感覚だ。
でも。
「……羊、おでこ痛いの?」
「え?」
「さっきからずっと押さえてるけど……まあ結構がっつりぶつけてたもんね」
大丈夫? とカナちゃんが私の顔を覗き込む。
その瞬間、ぶわ、と頭に血が上った。
完全に無意識だった――――! というか最早ぶつけたことなんて忘れてた――――!
津山くんの適切な処置があったからか、幸い赤くなることはなく、少し腫れた程度で済んだ。
ではなぜ額を気にする必要があったかといえば。
『羊ちゃん、好き……』
潤んだ声と共に降ってきた唇。優しく私の額を啄んだその感覚が、今も明瞭に思い出せる。
「うう……」
「どうしたの羊!? お腹痛いの!?」
「大丈夫……」