能ある狼は牙を隠す
羞恥に耐えきれず、軽く腰を折って自身の両腕を抱える。
朝から考えるにしては少々ハードな案件すぎた。
結局カナちゃんに言いたいことの一ミリも伝えられないまま、バスが学校前に着いてしまう。
教室で彼を見かけたら、いつも通り挨拶。できる。大丈夫だ。
一人でうんうんと頷きながら、停車したバスから降りる。
「あ、羊ちゃん。おはよう」
「――ぅあっ!?」
地面に両足を落ち着けて顔を上げた途端、普段はそこで聞こえるはずもない声が飛んできた。私はといえば、普段ここで上げるはずもない素っ頓狂な声を喉から捻り出すはめになり。
「狼谷くん!? どうしてこんなところに……!」
バス停付近のフェンスに背中を預けていた彼は、慌てふためく私を見て肩を揺らす。そしてこちらへ歩み寄りながら、こて、と首を傾げた。
「羊ちゃんに一秒でも早く会いたくて待ってた。迷惑?」
「うっ、」
あざとい――――!
変な呻き声が漏れて、咄嗟に口を押さえる。
どうしよう、狼谷くんが眩しい。笑顔がきらきらしてる。心臓がさっきからばっくんばっくんいってるよ!
「まだ実感わかなくて……本当に夢だったんじゃないかって、昨日の夜ずっと不安だったから。今朝もいきなり電話かけちゃってごめんね?」