能ある狼は牙を隠す
と、いうよりも。
やっぱりカナちゃんは分かっていたんだ。私の狼谷くんへの気持ち。
何も聞かれなかったし、何も言わなかった。でもそれは決して隠したかったからというわけではなく。
私自身、途中までブレーキをかけていた。これ以上はだめだと線引きをして、踏み込まないようにしていたんだ。
うっかり言葉にしてしまったら。形にしてしまったら最後、二度と戻れないと思ったから。
「ま、そういうことで。羊が決めたことだから私からはお咎めなしね。分かった? 狼谷くん」
突然矛先を変えたカナちゃんに、私は目を見開いた。
まさか彼女が直接狼谷くんに話を振るとは、微塵も予想していなかったのだ。
「西本」
先程までの柔らかい表情から一転、狼谷くんはその真剣な眼差しをカナちゃんに向ける。
「今までの俺がしてきたことが許されるとは思ってない。……俺自身も、許さない。絶対に忘れないし、これからもそのつもりだ」
確固たる意思に満ちた言葉。彼は深く息を吸って続ける。
「でも一つだけ――羊ちゃんのことは必ず守る。何があっても、死んでも守る。それだけは確実に誓うから」