能ある狼は牙を隠す
真っ直ぐ、ただひたすら一直線な熱意だった。
彼の矢はいとも容易く私の心臓を貫いて、体をじんわり侵食していく。
死んでも、なんて。彼の口から飛び出したのが驚きだった。
カナちゃんはしばし黙り込み、それから少々呆れたように肩をすくめる。
「だから、いちいち重いんだって……本気なのは伝わったけど」
「重い?」
「自覚ない分タチ悪いわぁ……」
カナちゃんは同情じみた視線をこちらに寄越し、私の背中をたたいた。
「うん、狼谷くんがこうなったのも羊の責任ってわけだ。頑張れ」
「えっ?」
なんか責任押し付けられたな? よく分からない応援ももらっちゃったな?
戸惑う私に、カナちゃんは一人うんうんと納得したかのように頷く。
「それじゃあ私、先に行ってるから。あとはごゆっくり」
「え!? カナちゃん……!」
急に放任主義なんですが!?
背を向けて遠ざかっていく彼女へ、反射的に伸ばした腕。行き場を失って力なく垂れ下がったところを、狼谷くんに掴まれた。
え、と自分の口から零れたのが先か、彼が私の手を握ったのが先か。
「行こっか」
朝から羊ちゃんとデートできて嬉しい。
屈託のない笑顔でそう宣う狼谷くんのペースにのまれた私は、教室に入って津山くんに指摘されるまで、彼と手を繋いだままだということを忘れていた。