能ある狼は牙を隠す
ああ、と合点がいった。
『私、臆病者だから。もう友達は終わりって言われたらどうしようとか、他の女の子ともこんな風に話してるのかな、とか……そんなことばっかり気にして、ずっと言えなかった』
確かに言った。というか、思っていた。
津山くんに種明かしをされるまで、私はずっと狼谷くんが女の子とそういうことをしていると思い続けていたのだ。
「ほんとごめん。俺がちゃんと言わなかったから悪いんだよな……岬にも散々言われた、言葉足りてないって」
頭を下げた彼に、私は立ち尽くす。
狼谷くんは悪くないよ、とも。全然気にしてないよ、とも。言えなかった。
だって、狼谷くんのせいで沢山悩んだ。傷ついた。夜中にわけもわからず涙が出て、翌朝目が腫れて大変だった日もあった。
誰かを好きになると、欲張りになる。いい人じゃいられなくなる。
「うん」
遠慮はやめた。謙遜もしない。
だってもう、苦しいのはこりごりなんだよ。
「ずっと不安だったよ。……だから、これからはちゃんと安心させてね?」
狼谷くんがゆっくりとその目を私に向ける。
泣きそうに歪んだかと思いきや、振り切るように彼は力強く頷いた。
「うん。うん……もう、絶対不安なんかにさせないから……」