能ある狼は牙を隠す


俯いた狼谷くんは、次の瞬間私の腕を引っ張って、すぐそばの空き教室に踏み入った。
その勢いのまま、ぎゅっ、と抱き締められる。


「え、狼谷く、」

「今まで足りなかった分、これからはちゃんと言葉にする……全部言う。毎日言う」

「う、うん……?」


どうやら決意表明をしているらしい。恐らくいい傾向なので、とりあえず同意しておくことにした。


「羊ちゃん、好き。ほんとに好き。もう羊ちゃんしかいらない。羊ちゃんがいい。羊ちゃん以外目に入らない……」

「え!? え、あの、」

「すっごい好き。こんなの初めてなんだ……お願いだから、逃げないで」


腰に彼の手が回る。
背中は壁、正面には狼谷くん。身動きが取れずに固まっていると、彼が縋るように私の首筋に頬を寄せた。


「羊ちゃんに嫌われたら俺、どうなるか分かんない」

「狼谷くん……」

「羊ちゃんだけなんだ……俺のこと、全部受け止めてくれたの」


ちぅ、と微かに吸引音がした。
彼の息がかかって、それから熱い舌が喉をなぞる。


「分かってる。俺の方が百万倍、羊ちゃんのこと好きっていうのは……分かってるけど、」

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