能ある狼は牙を隠す


焦がれるような視線が私を射抜いた。


「早くここまで来てよ。俺と一緒に堕ちて……」

「ひぁ、う……」


ちく、と首筋に痛みが走る。
耐えきれずに情けない声が漏れて、懸命に唇を噛んだ。


「羊ちゃんだけだよ。もう一生、羊ちゃんだけ」

「い、一生……?」


さも当然のように告げた狼谷くんに、思わず聞き返す。
途端、彼の目が仄暗くぎらついた。


「そうだよ。一生。羊ちゃんは俺と別れる前提で付き合うの?」

「え、そういうわけじゃ、」

「俺のこと本気じゃなかったんだ……?」


光を失った瞳が私を責める。
腰を抱く彼の腕に一層力がこもったのを感じて、私は慌てて言い募った。


「違うよ! 狼谷くんのこと好きだよ、本当に!」


私の弁解に納得したのか、狼谷くんは再びその瞳に生気を取り戻す。おもむろに私の左手を取ったかと思えば、酷く満足気に微笑んだ。


「うん。嬉しい……」


彼の指が何かを探るように動く。やがて止まったそれは、私の左薬指を執拗に撫で始めた。


「ずっと一緒だよ。もう、絶対逃がさないから」


耳元でそう囁いた声が、まるで悪魔のように甘く、私をそそのかした。

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